Vol.2 和歌山県立向陽中・高等学校 吹奏楽部
部長やパートリーダーがいないバンド

今回「Close-up The BAND」でご紹介するのは、和歌山県屈指の名門、和歌山県立向陽中・高等学校吹奏楽部。同部は和歌山県吹奏楽コンクールにおいて過去25年間で22度も金賞・県代表・関西吹奏楽コンクール出場を果たしており、関西吹奏楽コンクールでは過去に金賞を3回・銀賞を15回・銅賞を4回受賞している。また昨年は第8回全日本高等学校吹奏楽大会in横浜において「ヤマハ賞」も受賞している。このように輝かしい成績を残す県立向陽高等学校は、一方で県内有数の進学校でもある。まさに「吹奏楽と勉強をがんばる」文武両道の彼らである。
この吹奏楽部では昨年度より併設の向陽中学校の生徒を部員に迎え、高校生と中学生で一つの吹奏楽部を構成するという珍しいバンド形態が取られている。このことは向陽ブラスの特徴と言えよう。しかしこの部にはそれ以外に他ではあまり聞くことのない驚くべき事実がある。それはなんと、この部にはパートをまとめるパートリーダーが存在しないということだ。それどころか部長すら存在しない。つまり部内をまとめる役職が存在しないのだ。それは何故だろうか?この一見型破りにも見えるこの部の体制の裏には、吹奏楽部顧問である湯川昌彦先生の「固定観念にとらわれない独自の教育論」がうかがえる。私達取材班はその教育論を紐解くことで、県立向陽中・高等学校の強さの秘密に迫る。

【2007年6月2日 取材】

和歌山県立向陽中・高等学校 吹奏楽部

キーワード(1) 部長やパートリーダーはいらない

部長の大きな役割の1つとして、「部員をまとめる」役割がある。しかし湯川先生は、一人の生徒がパートや部全体をまとめること自体あまり必要に感じないと言う。さらに言うならば、「生徒をまとめるのは大人の仕事だ」とはっきり言う。
また先生は、生徒を平等に指導する上で部長やパートリーダーの存在が弊害になる場合があると指摘する。「部長だから・・」「パートリーダーやろ・・」という肩書きがあるばかりに生まれる生徒への期待と苛立ち。部長やパートリーダーとなった生徒が抱える音楽以外の余計な負担。これらの弊害を取り除き、生徒一人ひとりを『自立』させることで、初めて全ての生徒を平等に指導することができると湯川先生は話す。まさに先生ならではの独自の教育論である。
「要は個々に自分のやるべきことをきちんとやる、ただそれだけの話。」
「こちらからは口を出さない。生徒一人ひとりが『自立』の精神を持って自ら考え行動することで、自然発生的に誰かその場を引っ張っていく者が生まれてくるんですよ。」
生徒には吹奏楽に集中してもらいたいという湯川先生の想いが、部長・パートリーダーがいらない今の部の体制を形作り、結果として向陽ブラスのレベルアップに大きく貢献している。

部長

キーワード(2) プロを招いての定期演奏会

定期演奏会

次に取り上げるのは、県立向陽中・高等学校吹奏楽部の定期演奏会である。この定期演奏会、公立高校の演奏会にもかかわらず、ここ数年プロの演奏家が客演で参加している。高校の定期演奏会にプロの演奏家が参加するということだけでも驚きだが、その顔ぶれがこれまたスゴイ!の一言だ。一部その顔ぶれを紹介すると、
・須川展也氏(サックス奏者、東京佼成ウインドオーケストラ)
・田中靖人氏(サックス奏者、東京佼成ウインドオーケストラ)
・エリック・ミヤシロ氏(トランペット奏者、フリー)
・呉信一氏(トロンボーン奏者、サイトウ・キネン・オーケストラ)
・外園祥一郎氏(ユーフォニアム奏者、航空自衛隊航空中央音楽隊)
・唐川修三氏(チューバ奏者、大阪フィルハーモニー交響楽団)  他
このように多彩で豪華なプロの演奏家との共演が実現したのも、ひとえに湯川先生の吹奏楽への熱い想いと人脈があったからこそ。今後も様々なゲストの参加を予定しているという。部員のみんなもプロと共演できる定期演奏会を毎回楽しみにしていると話す。
「プロの演奏は本当にスゴイ!の一言で、毎回感動します。ましてプロと共演できるなんてとても光栄ですよ。そのことをよく行く楽器店の店員さんに話したら、『えっ、あの人と!?』ってすごく驚かれました。」
著名なプロの演奏家との共演は部員達にいろんな意味で刺激を与え、この貴重な経験が一人ひとりの音楽への意識を高めているに違いない。向陽高校、恐るべし。

キーワード(3) 高い進学率

高い進学率

和歌山県立向陽高等学校は県内有数の進学校であり、生徒の進学に対する意識は高い。それは部活で忙しい吹奏楽部員も例外ではない。実際吹奏楽部員のなんと99%が大学に進学しているという驚異の数字を叩き出している。それも過去に部員が進学した大学名を挙げると、東京大学を始めとする国公立、私立の有名大学がズラリと並ぶ。部活で素晴らしい成績を残しつつ、勉強にも手を抜かない彼ら。この結果は吹奏楽部員一人ひとりの普段からの努力の賜物であることに間違いはないが、学校側も学力向上のための環境を整え生徒達を全面的にサポートしている。例えば土曜日の補習や、昨年導入された予備校のサテライト講座などがその1つである。「公立校の環境を生かしつつ、私学の良い部分は積極的に取り入れる」、このいいとこ取りの学校の考え方が生徒達に「勉強への意欲」と「学校への信頼感」、ひいては「部活を続けることの安心感」を与えるのだろう。

キーワード(4) 湯川昌彦先生

湯川昌彦先生

22年もの長き間、教師として県立向陽高等学校に在職し、吹奏楽部を牽引し続けてきた「湯川昌彦先生」。部員に湯川先生の印象を聞くと、「厳しい」「優しい」「恐い」「面白い」など様々な意見が飛び出すが、一様に生徒達の先生への尊敬の念は揺るがない。
「先生は全てに一生懸命で手抜きがなく、私達個々の性格もよく理解してくれています。」
「先生にはいろいろ見抜かれているので、いつもビックリします。」
「先生はどんなに忙しくても、私達のことをいつも気にかけてくれます。」
そんな部員の厚い信頼に、熱い気持ちで応えてくれる湯川先生。誰もが認める、県立向陽中・高等学校吹奏楽部になくてはならない大切な人物である。

キーワード(5) 部員

部員

和歌山県立向陽中・高等学校吹奏楽部の部員のみんなはとにかく仲が良い。先輩・後輩の関係も良好で、パートの垣根を越えての交流も多い。それは「誰が教える、教えない」ということではなく、「必要だと思う人が、自ら進んで行動する」というすごくシンプルな考え方から生まれてくるもので、このことは「生徒を『自立』させる」という湯川先生の想いが生徒に浸透した結果と言えるだろう。昨年度より中学生の部員を迎え、部長もパートリーダーもいない向陽では今まで以上にパート内や部全体のバランスを取るのが難しくなるだろうが、彼らなら心配はいらない。なぜなら部員一人ひとりがその時自分がやるべきことを理解し、行動できる自立心を養った生徒達だからだ。
このように、5つのキーワードで和歌山県立向陽中・高等学校吹奏楽部を検証してみると、なるほど部員一人ひとりの『自立』の精神と湯川先生の熱い気持ちがうまく結びついた結果、今の向陽ブラスのサウンドが作り上げられたことがわかる。部活と勉強の両立を実現しつつ、夏の大目標に向かってがむしゃらに日々練習を重ねる彼ら。今年のコンクールでは一体どんな演奏をして私達を驚かせてくれるのだろう。今後も目が離せない注目バンドだ。

顧問に聞く!

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【プロフィール】
和歌山市立日進中学校に入学後、吹奏楽を始める。パートはパーカッション。そこから吹奏楽人生が始まる。中学卒業後、和歌山県立向陽高等学校に入学、ここでも吹奏楽部の門を叩く。

部員が選ぶBest of Brassさん

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「Best of Brassさん」に選ばれたのは、トランペット担当で高校3年生の南尾君。
取材班がインタビューしました。

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