近畿大学附属高等学校吹奏楽部 指導員 小谷康夫先生

小谷康夫先生
プロフィール
音楽は愛

昭和36年生まれ。3歳からピアノを習い始め、鳥取県倉吉市立河北小学校の5年生の時に鼓笛隊の打楽器パートに入るが、その後トランペットに転向。倉吉市立河北中学校に入学後、吹奏楽部にトランペットパートで入部。同じく鳥取県立倉吉東高等学校に入学後、吹奏楽部にトランペットパートで入部するが、パーカッションに転向。その後大阪音楽大学に入学し打楽器を専攻、大学内の吹奏楽研究会では指揮者を務める。大学卒業後は、大阪府音楽団(現大阪センチュリー交響楽団)、大阪市音楽団などの客演奏者として数々の演奏会に参加する。第1回日本管打楽器コンクール第3位入賞。NHK洋楽オーディション合格。
吹奏楽の指導者としては、これまでに関西大学応援団吹奏楽部、奈良ウインドコンサートファミリー、A-Winds奈良アマチュアウインドオーケストラなどを指揮。また、近畿大学附属高等学校吹奏楽部の指揮者として1993~96年の4年間務め、その間吹奏楽コンクール関西大会に4回出場を果たす。2006年12月に同校の指導員に復帰就任。2008年吹奏楽コンクールより同校吹奏楽部を指揮、吹奏楽コンクール関西大会への出場を見事果たす。
現在、大阪シンフォニカー交響楽団首席ティンパニ奏者。大阪音楽大学、大阪教育大学、大阪芸術大学、神戸女学院大学、各講師。

取材班:
小谷先生にとって吹奏楽の魅力とは何ですか。
小谷先生:
吹奏楽は聞くだけでなく、やっぱり中に入って演奏してみると分かる魅力がたくさんあります。「全員が一つの方向に向かって一つの音楽を奏でる」っていうのは自分が演奏するプロのオーケストラの世界でもなかなかないんですよ。だから、生徒たちと一緒に合奏をすると自分で演奏しているだけでは味わえない感動が得られますね。 ちなみに、以前僕はこの近大附属高等学校に1993~1996年の4年間お世話になり、指揮者としてコンクールに出場したことがあります。また、この学校を離れた後もしばらくは他の吹奏楽団体の指揮をしていました。しかし、打楽器こそ教えてはいたものの、吹奏楽に深く関わって指揮をしたりコンクールに出たりしなかった時代も何年間かあって、実はその時の僕はあまり吹奏楽の曲を聞いていなかったんです。オーケストラでの演奏はもちろんずっと続けていたんですけどね。で、今回縁あってこの吹奏楽の世界に改めて入ってみると、いない間に僕の全然知らない新しい曲がいっぱい出ているのに驚きましたよ。
取材班:
小谷先生が音楽を始めたきっかけをお話しください。
小谷先生:
子供のころからピアノをやっていましたね。親がピアノの先生をやっていたということもあって、小学校の頃からすでに将来は音楽をやっていこうという意識はありましたよ。でも僕の場合は、クラシックより先にビートルズから音楽に入っていったんです。ディープパープルもよく聞きましたね、ロックもハードロックですよ(笑)。そこから次第にクラシックを聞き出して、それでクラシックの奥の深さに魅了されたんです。
取材班:
通常、ロックやポップスから最後クラシックにたどり着くというのは珍しい気がするのですが。
小谷先生:
小谷先生おそらく打楽器奏者の中には多いと思いますよ。男の子は特にね。ロックやポップスの音楽観とクラシックの音楽観は全然違うでしょ。クラシックは一生懸命やればやるほど奥が深いですし、感動する深さも違います。そういうところで、僕自身クラシックを勉強すればするほどのめり込んでいったという感じです。

取材班:
合奏では特にどのような点に注意して生徒たちを指導されていますか。
小谷先生:
まず、生徒たち自身が自主的に自分の意志で音楽ができるようになりたいと思うことが一番だと考えています。これは気を付けているというより、そうしてくれないと僕の気持ちが悪いんですよ。音程が合っていないとか、リズムが合っていないということよりも先に、一人ひとりの意志がちゃんと音に表れているかということの方がすごく気になるんです。まあ確かにコンクールの時期はどうしても音程やリズムを揃えていく練習を積み重ねますけれど、でも最初のうちは全然そういうことを生徒たちに言ったことはなかったですね。
取材班:
先ほどクラリネットのパートの方に「演奏中どのようなことに気をつけていますか?」と聞いたところ、「部内を明るくするように意識しています。特にクラリネットは前の方に座っているので、率先して明るくしないと後方にいるパートにまで暗い雰囲気が伝わるので。でも結局いつも小谷先生に場の雰囲気を明るくしてもらうので、先生より先に明るくしないと。」って言っていましたよ。
小谷先生:
小谷先生そう、雰囲気が暗いとかテンションが下がっているとか、言うなればその雰囲気づくりが演奏する上で僕は一番気になるんです。だから、生徒たちにはいつも明るくあってほしいですね。でもたぶん、僕のほうが先にいっているとは思いますけど(笑)。いつも生徒たちよりもテンションが一番高くありたいし、一番明るくありたいとは思っていますから。だから、生徒たちがいくら頑張ってもたぶん僕には勝てませんよ(笑)。それは自信があります。


取材班:
小谷先生がこの近大附属高等学校に再び指導に来られてから約2年が経ちますが、この2年間の指導で生徒たちはどのように変わったとお考えですか。
小谷先生:
全てが変わりましたね。ある意味、大改革をしたんですよ。まずは、生徒たちの「ありがとうございました」の挨拶のタイミングから、立振舞や考え方などを変えていきました。特に挨拶はタイミングがどうのこうのではなくて、要するに気持ちがこもっているかどうかが大事だという話で、僕が最初指導に来た時に生徒たちは僕に対して一応「ありがとうございました」って言ってはくれるんですけど、僕には「ありがとうございました」って聞こえなかったんですよ。もっと言えば、僕に本当に感謝をしているように聞こえなかったんです。それで、まず「ありがとうございます」ってどういう意味なのか、ということからみんなで考えていったんです。生徒たちとしては、全員で声を揃えて同時に言わないといけないっていう概念があって、感謝の気持ちを込めることよりも先に、全員が揃えることに気をとられていたんだと思います。でもそうではなくて、僕は、「バラバラでいいから感謝の気持ちを述べてほしい」と言いました。 また、ポップスを演奏する時も、最初の頃は今のような生徒たち自らが自主的に表現する楽しいノリはとにかく全然なかったですよ。まあ、固かったですね。今でこそ自然に声も出ていますけど、最初は「イェイ!」って言えって言っても全然言わないから、生徒たちに強制的に言わせましたよ。そうしたら全員が揃って「イェイ!」って言うんですよ、アホかって思いましたよ(笑)。それに「3、4、イェイ!」って言ったらその後はみんなシューンって黙り込むんですよ。だから「それは違う、自分が言いたいときに言いなさい」って、自分の意志で言うように指導しました。 音楽をするにしても、一番最初に「ロマネスク」という曲をみんなでやったんですけど、最初の一音から次の一音にいくまでに僕が違和感を感じたらすぐに曲を止めて、「この音はこの音に向かおうとしているんだよ」って。僕の指導はそういう当たり前のところから始めましたね。
取材班:
確かに、合奏での返事のタイミングはバラバラでした。普通なら、一斉に揃って「ハイ!」って言うところを、近大附属高等学校吹奏楽部の生徒さんたちは、個々に考えてそれぞれが返事をしていますよね。
小谷先生:
吹奏楽の世界ってみんなが一斉に返事をしたりするところが多いでしょ。多分そういう風にまとめる方が楽なんですよ。例えば手を揃えるとか、線を揃えるとかは一番目に付きやすいからね。でも音程が合っていないとか、リズムが合ってないというのは、こっちも分かっているけれどそれは生徒たちも分かっていることなので、そのズレをどういう風に合わせていくかっていうのはこっちサイドの持っていき方ですよね。
小谷先生 例えるなら、牧場の中に羊の群れがいて、「あっちに行ったらおいしいエサがあるよ」っていう時に、一匹一匹の首に縄を付けて引っ張っていくんじゃなくて、柵を作ってあげてその中のあっち方向においしいエサがあるってことを羊たちに軽く教えてあげることで、それぞれの羊が自分の意志で取りに行くって感じかな。その際にこっちは押したり引いたりはしないんです。それが僕の思う理想的な持っていき方ですね。そのうちに音程も合ってくる、リズムも合ってくる、そしていい音楽が生まれてくると思っています。

取材班:
今年のコンクールについてお聞きします。まずは、自由曲「レッドライン・タンゴ」を選ばれた理由を教えて下さい。
小谷先生:
自由曲に「レッドライン・タンゴ」を選んだ理由は、変拍子がかなりきつい曲なのですが、僕にとってはあれくらいの変拍子は全然苦にならないので、自分にぴったりだなと思ったのが一番の理由ですね。最初は生徒たちも苦労していましたけど、でも順応するのが早いですからね。あと、できるだけあまり有名でない曲をやりたいなと思ったのもこの曲を選んだ理由の一つですね。
取材班:
確かに「レッドライン・タンゴ」は小谷先生のイメージに合っていると思います。これからもこういうラインの選曲でいかれる予定ですか。
小谷先生:
それは生徒たちの技量と実力を見極めながら曲選びをしていかないといけないなと思うんです。どんな曲でもできたらそれに越したことはないんですけどね(笑)。今はまだまだ発展途上なので。
取材班:
今年のコンクールを終えて、振り返って見て何か反省点はありますか。
小谷先生:
この学校としては今年久しぶりに関西大会にまで出場することができましたが、厳しいことを言えば、最後の最後で精神的な弱さが見えたところがあったということが反省点ですかね。やはりメンタル的な部分をもっと強くしていかないと駄目だなと思いました。
取材班:
確かに生徒さんたちも先程「関西大会に出ている学校はみんな上手くて、出場しているだけですごいなって感じて緊張しました」って言っていました。小谷先生が舞台の上で何かちょっといつもと違うなと感じられたのは、そういった緊張から生まれたものなんでしょうね。
小谷先生:
演奏を始めるとすぐに音に表れましたよ。コンクール本番の音は、午前中の練習の時の伸び伸びとした音とはちょっと違っていましたのでね。そこだけは反省点だなと思います。
取材班:
大阪府大会では緊張による音の変化はあまり感じませんでしたか。
小谷先生:
府大会ではあまり感じなかったですね。もちろん府大会でも生徒たちは緊張していましたけどね。
取材班:
実際、生で聴いた近大附属高等学校の関西大会での演奏は、一体感というのかグループ感というのか、そういうものが観客に伝わるとてもいい演奏だったように思います。まさにその時だけコンクールじゃなくてコンサートという感じでした。だからということではありませんが、演奏が終わった後の観客の拍手は他の高校と比べてもとても大きくて長かったように思います。
小谷先生:
ありがとうございます。そう言っていただけるだけで価値があります。そう聴き手に感じてもらうことが、僕たちの一番の目標であると言っても過言ではないと思います。ちなみに、僕なりにいい演奏をするためにいつも同じテンポ、いつも同じ指揮はしないようにしているんです。だから、その時々によって多分全然違う振り方をしているだろうし、生徒たちにはそれに反応できるようなトレーニングを行なっています。
取材班:
小谷先生の思い描く理想の吹奏楽部とはどういったものですか。
小谷先生:
小谷先生多分、既にこの近大附属高等学校吹奏楽部は僕の理想の吹奏楽部にはなっていると思います。まぁ欲を言えばキリは無いんですけど、いつでも新鮮な気持ちで音楽を奏でられる吹奏楽部であったらいいなと思います。
取材班:
最後に生徒たちに何かメッセージがあればお願いします。
小谷先生:
僕自身を含めて今のこのクラブで一緒に音楽をやっている瞬間というのは、本当に貴重でかけがえのない時間を過ごしているんだと思うんですよ。だからその瞬間その瞬間を卒業してもいつまでも忘れないで、自分たちの生きる糧にしてくれたらいいなといつも思っています。まぁそんなこと普段は生徒たちには言わないですけどね(笑)。でも本当に、50人、60人、これだけの人数が、みんな一つの方向を向いて一緒の音を奏でるという瞬間にはなかなか出会えないと思いますよ。大人になったら絶対無理で、今しかできないことだと思います。
僕はこれまでいろんな所に吹奏楽を教えに行っているので分かるんですけど、大学生になると一人ひとりそれぞれの考えがあってやっぱりバラバラの方を向いていくし、中学生はまだちょっと考えがまとまっていないところがあります。その点高校生は自分の意志とクラブ全員の意志とが一番まとまりやすい時期じゃないかと思うので、その瞬間をじっくり味わって欲しいなと思います。
取材班:
合奏の合間の貴重な時間、インタビューにご協力いただきありがとうございました。近大附属高等学校吹奏楽部の今後益々の活躍をご期待申し上げます。