箕面自由学園高等学校吹奏楽部 顧問 福里先生

福里大輔先生
プロフィール
Happyな音楽を!

中学時代はユーフォニアム、高校時代はチューバ、指揮を担当。
1991年大阪音楽大学音楽学部声楽学科卒業。
声楽を山村弘氏に師事する。
箕面自由学園高等学校に非常勤講師として91年より勤務。2年後に音楽教諭、吹奏楽部顧問として就任。
全日本マーチングコンテスト2011、2012、2013、2014年出場。3度の金賞と銀賞を受賞。2011年には日本テレビ「笑ってコラえて!~マーチングの旅~」に出演し、多くの反響を呼ぶ。定期演奏会、コンクール、地域イベントなど、年間約50回のステージに出演。


取材班:
先生は、この学園に吹奏楽部ができた当時からいらっしゃるのですか?
福里先生:
吹奏楽同好会 はい。もともとアメリカンフットボール部の応援を目的に吹奏楽同好会が設立されていまして、アメフト部が全国大会に出場した年に、この学園に赴任してきました。そして、同好会3年目にクラブに昇格しました。当時の定期演奏会ではお客さんが少なくて、むしろ部員の方が多かったですね。まだ若かったので自分の指導力に関しても不安でしたし、一時期部員数が12名に減った時は精神的にも体力的にもギリギリの状態でした。あの頃は、今のような大所帯になるとは思ってもいませんでしたね。クラブが10年目を超えたあたりから部員数も増え、軌道に乗ってきまして、おかげさまで来年、同好会設立から25周年を迎えます。
取材班:
今までに先生にとっての転機となった出来事はありますか?
福里先生:
2人の先生方との出会いが大きかったですね。まず、前大阪府吹奏楽連盟理事長の故松平正守先生には、イベント出場の機会を与えていただきました。松平先生は箕面にお住まいで、当時メイプルホールの館長をされておられました。「3000人の吹奏楽」へ出場するようになったのも、松平先生が声をかけてくださったからです。また、現在全日本吹奏楽連盟理事長をされておられる丸谷明夫先生に、バンドの運営面で手本を見せていただけたことも刺激になりました。2年に1度、甲子園の高校野球開会式・閉会式で大阪の高校選抜が演奏をするのですが、丸谷先生主導の下、私も助手として参加させていただく機会がありました。丸谷先生の音楽にかける情熱は想像を超えるもので、それを目の当たりにして奮起しました。僕も自分なりに工夫しなければならないと思いまして、当学園のアメフト部の試合のハーフタイムにマーチングを入れたり、私が長年取り組んできた声楽を練習で取り入れたりと試行錯誤を繰り返していきました。
取材班:
「クラブ選抜コース」はいつ頃から始まったのですか?
福里先生:
吹奏楽のおもしろさ ちょうど10年前に創設されました。クラブ選抜コースというのは、アメリカンフットボール部、チアリーダー部、女子バレーボール部、男子バスケットボール部、吹奏楽部といった5つの強化クラブにおいて、クラブ推薦入試制度により入学した生徒を集めたクラスです。現在、吹奏楽部には3学年合わせた部員144名のうち、90名ほどがクラブ選抜コース、残りの50名ほどが総合進学コース(クラブと勉学の両立を目指すコース)の生徒です。この2、3年でクラブ選抜コースの人数が増え、総合進学コースの人数を上回りました。クラブ選抜コースの特徴は、土曜日に音楽の授業が4時限あり、授業カリキュラムの枠内で練習ができるところです。授業は私が担当し、合奏練習をみたり音楽の基本について教えたりしています。コース創設時に「年間ほとんど休みなく練習に打ち込み、大阪代表や全国大会を目指す」という前提がありますので、全力でクラブ活動に取り組みたい生徒が集まっています。
取材班:
クラブ選抜コースにはどのような生徒に来てもらいたいと考えておられますか?
福里先生:
音楽が好きで、うちで頑張りたいという生徒に来てほしいと思います。クラブ選抜コースに対しては、純粋に成長できる場にしたいと考えているので、入試の面接で聞くことは主に3つです。「音楽が好きか」「どこを目指したいか」「うちの高校で頑張りたいか」ですね。中学時代のコンクール実績などはあまり聞きません。クラブ選抜コースを選んだ理由として「吹奏楽部がマーチングで有名だから」と言っていただけるのも大変うれしいんですけど、「おもしろそう」とか「青春できそう」と感じて選んでもらえたら、もっと良いなあと思いますね。もしかしたらこのような考え方は、学校側のコース創設の意図とは少しずれてしまうかもしれませんが、学校の看板を背負いつつも、のびのびと音楽をとらえながら頑張れる場にしたいと思っています。その上で良い結果を残し、みんなが喜ぶというのが理想ですね。
取材班:
部員数が144名ということですが、運営は大変ではないですか?
福里先生:
吹奏楽のおもしろさ 大変ですね。一人ひとりを見てあげられないのが悔しいです。なので、来年度からシステムを変えてバンドを分けようと考えています。上手くいくか分からないですが、一度に見る人数を減らすことで、一人ひとりをきちんと見てあげられたらなと思って。人数が多いと顔が隠れたり、音が隠れたりしてしまうんです。人数が多いというのは強みであり、弱みでもあるなと感じているところです。これからは今まで以上に一人ひとりと、しっかり向き合いたいと考えています。
取材班:
部員の皆さんと関わる際に、どんなことを意識しておられますか?
福里先生:
「部員たちの能力を決めつけてしまわないようにしよう」といつも思っています。子どもの才能は無限大ですからね。できるかできないかを考えず、「できたら儲けもん」と思うようにしています。挫折を味わうことになるかもしれませんが、目指さなければ何も得られないですよね。ならば、目指してやってみた方がいいと思うんです。それを部員にも伝えています。経験を積んで「高校時代よかったなぁ」と感じて巣立ってもらいたいですね。最近初めてこちらに来られた方に「なんか旅館に来たみたい」と言われたことがあるんです(笑)。部員たちの雰囲気がやわらかく、おもてなし精神に溢れているからだと思います。男子高校生というと斜に構えてしまう年代だと思うんですが、ここにいるとだんだん構えなくなってくるんですよ。そんな素直な気持ちが演奏にも反映されているので、部員たちにはこれから先も今の気持ちをずっと忘れずにいてほしいと思います。
取材班:
男子部員は144名中20名の少数派ですが、練習中に頑張っている姿が特に印象的でした。
福里先生:
吹奏楽のおもしろさ そうですね。もっと男子部員の人数が増えたら良いなと思います。そのためには、男の子には小さい頃からサッカーや野球に触れるのと同じくらい、楽器に触れるチャンスがあれば良いなと思います。楽器だってグローブやバットと同じ道具ですから、生活の中に当たり前に楽器がある未来を創れたら理想ですね。
取材班:
合奏中に歌う姿が印象的でした。なぜ、練習に歌を取り入れているのでしょうか?
福里先生:
楽器を使って演奏する際に、表現を豊かにできるからです。今日は「サライ」を練習していたのですが、出だしの「遠い夢 捨てきれずに 故郷を捨てた」という歌詞を部員たちに歌わせながら、「この曲の主人公はどんな気持ちなんやろうなぁ」と問いかけました。故郷の風景は、部員144名それぞれ違うわけですが、どこか切なかったり、やるせない思いというのは共通していると思うんです。歌いながら歌詞の意味を考えると、その内容に心を揺さぶられることがあるでしょう。その感情の動きを音で表現しようとすると、とても音が揃うんですよ。「強く」「弱く」と指示しなくても強弱が生まれるので、歌ってから合奏につなげる練習をすると、ダイナミクス(強弱記号)を感情の動きで補うことができるんです。「心を一つにして演奏する」とは「演奏者たちがイメージを合わせながら、音に感情を乗せていくということ」ではないかと思うので、心を一つにするために歌は最適なんです。
取材班:
練習の最初にはエアロビクスも取り入れていましたよね?
福里先生:
はい。なぜやっているかと言うと、ズバリ楽しいから。自主的に部員たちが曲を選び、振り付けなども考えています。普通の筋トレはしんどいからやりたがらないけど、エアロビなら楽しいからやるんですよね。マーチングの際の基礎体力を鍛えるためにも役立っています。さらに、全員で声を出して体を動かしていると心がオープンになっていくようで、おとなしい子が自分の口で何かを伝えられるようになったりして、良いコミュニケーションツールにもなっているようです。
取材班:
コンクールやマーチングへの取り組みについて聞かせてください。
福里先生:
吹奏楽のおもしろさ 曲は、私が選ぶことが多いですね。選曲のポイントは"泣ける曲"かどうか。ここぞというところで魅せる部分がないとダメなんですよ、ヘタッピなんでね(笑)。これからまたそういう曲を探していきます。私も、まだまだ勉強しないといけません。コンクールメンバーについては、学年関係なくオーディションをして選んでいます。マーチングもオーディションがあるのですが、技術的な面だけでなく、音頭を取ってチームに勢いをつけてくれるようなムードメーカー的な素養も見ながら、全体のバランスを考えてメンバーを選出しています。マーチングに関しては、日本マーチングバンド協会の理事をされている秦先生に協力していただいています。私が演奏を、秦先生が動きを見ることで、より細やかな指導ができるんです。
取材班:
定期演奏会への取り組みについて聞かせてください。
福里先生:
コンクールもマーチングも人数制限があるので、全員で取り組める定期演奏会はいつも印象的です。コンクールと定期演奏会では、少し取り組み方が違っていて、コンクールは「全国で一番を目指そうと思ってやるかやらないか」「賞を取るために音楽をどこまで追求できるか」が重要だと思うんです。結果ももちろん大事ですから。しかしそれに対して、定期演奏会は「どうすれば自分たちの音楽でお客さんを楽しませられるか」を、部員たちと追求し続けられるところが良いところだと思います。
取材班:
定期演奏会は全3部で構成されていますが、どのようにして部員たちの出番を決めていらっしゃるのですか。
福里先生:
基本、全員でやっていくのですが、演奏上はユニットを組むことがありますね。「ここは部分で、ここは全体で(演奏する)」という風に。1部、2部、3部のどこかで必ず全員が舞台に立てるようにしています。演奏中に何人かは演奏から抜けて、客席から出し物をやったり、歌にまわったりします。また、3年生は最後の舞台になるので「お疲れ様」という気持ちを込めて、少し見せ場を作るようにしています。
取材班:
3年生は2月(来週)の定期演奏会で卒業なんですよね。先生も寂しいのでは?
福里先生:
定期演奏会まで、あと... 私ね、泣いてしまうんですよ(笑)ダメですね~。昨年、全国マーチングコンテストで銀賞を取ったあたりから部員たちが人として成長し、構えていた子の構えがとれたと感じています。それまで3年連続金賞を取っていて、今の3年生たちは「自分たちも取れる」と心のどこかで思っていたんだと思います。それだけにコンテスト後も「銀賞」という現実を自分たちで受け止めようとしなかったり、素直になれなかったりしたんですね。私も部員たちと同じ悔しい思いをした分、そこからどんどん彼らをかわいく思うようになりました。そんな彼らの最後の晴れ舞台なので、来週は泣いてしまいますね。
取材班:
コンクール、マーチングコンテスト、定期演奏会の他にも、イベントに多数参加されておられますが、印象的なエピソードをお聞かせいただけますか?
福里先生:
2013年10月に東北で演奏会をしたことが印象的ですね。陸前高田市を含む4市6会場で活動を行いました。今もまだ、その時の被災地の生々しさや現地の方の懸命に生きる姿が目に焼き付いているんですよ。被災者の方と触れ合い、音楽でつながる感覚を体験したことは、部員たちにとっても印象深かったと思います。
取材班:
保護者の方々はどのようにクラブに関わられていますか?
福里先生:
各種大会や定期演奏会前には案内を出し、なるべく本番を見に来ていただく形を取っています。新入生保護者対象の説明会では「どうぞお子様がスポットライトを浴びるところを見てください」というお話をさせてもらっています。保護者の方にはお子様の成長をぜひ見ていただきたいです。また、年に一度何らかの形で部員たちが親御さんに感謝の気持ちを伝える場を設けています。他にも春先に保護者の方とBBQしたりすることもあります。そこで新入生の演奏を見せたり、部員の紹介をしています。とても楽しいですよ。
取材班:
箕面自由学園は、幼稚園・小学校・中学校・高校が同じ敷地内にありますが、それぞれ交流はあるのでしょうか?
福里先生:
ありますよ。幼稚園の発表会には部員が助っ人として行きます。幼稚園にある太鼓をチューニングするためなんです。すると園児たちが駆け寄ってきて、ハイタッチをするんですよ。高校生の部員たちもうれしそうでしたね。さらに今年の11月に学園90周年のイベントがあるのですが、その際に小学生と一緒に演奏したり、去年から中学校に吹奏楽部ができたので一緒に練習したりしますね。部員たちも下級生に教えることで技術的に上手くなるので、学園内で交流があることはとても良いことだと感じています。
取材班:
先生にとって吹奏楽部はどんな場所ですか?
福里先生:
「部員たちと夢を見られる場所」です。「もっと上手くなりたい」「コンクールで金賞を取りたい」「もっとお客様を喜ばせたい」と部員たちは無限に夢を膨らませてくれるんです。ここは部員も先生も関係なく、一緒になって、一生懸命になれる場所です。部員たちが音楽を、楽器を好きになって、夢中で練習に打ち込む姿を見ていると私も学ばされるところがあります。これからもずっと、部員たちと一緒に夢を見ていきたいですね。
取材班:
最後に、先生の今後の目標をお聞かせいただけますでしょうか。
福里先生:
吹奏楽のおもしろさ 「音楽の先生の育成」です。現在の吹奏楽部を巣立った部員の中から、音楽を様々な角度から教えられる先生をたくさん輩出できたら良いなと思います。音楽は素晴らしいものです。音楽ができる人は、心に起こった感動を言葉以外でも表現することができます。私は、感情表現が豊かな人の人生は幸せだと思うので、もっと多くの人に音楽を楽しんでもらいたいんです。そのためには、本当は幼稚園くらいから楽器に触れる機会をつくりたいんですよね。そうすれば中学生になって「吹奏楽をやってみよう」と思う生徒が増えると思いませんか?実際、2歳の我が子にマウスピースを与えてみると、最初は触ったりしゃぶったりしているんですけど、ある日突然、教えてもいないのに音を出せるようになりました。自分の声より大きい音が出せて、音階が吹けて曲を表現することができるということを小さい頃に知っていれば、もっと人生がおもしろくなるだろうなぁと感じました。我が子同様、他にも音楽に興味を持つ子どもがたくさん増え、吹奏楽にチャレンジしてくれたら、うれしいですね。そのために私も全力で吹奏楽部を指導し、この中から一人でも未来の音楽の先生が生まれることを楽しみにしています。

【2015年2月11日 取材】