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『課題曲クリニック解説』 ●2011年3月13日(日)
●会場/サーティホール(大東市立文化ホール 大ホール)
■演奏/フィルハーモニック・ウインズ 大阪
 
 3月13日「オオサカン・ウィンドバンド・フェスティバル」にて行われた2011年吹奏楽コンクール課題曲クリニックの内容を、当日の雰囲気そのままの対話形式でお伝えします。
※このイベントでは、課題曲クリニック以外にも様々な講座が行われました。イベント当日のレポートはこちらからどうぞ。
 
◎ゲストプロフィール/時任 康文
  武蔵野音楽大学音楽学部器楽科卒業後、東京音楽大学指揮科に於いて、指揮法を紙谷一衞、汐澤安彦、両氏に師事。在学中より二期会、日生劇場、新国立劇場、を中心にオペラの音楽スタッフ、及び合唱指揮者として活躍。小澤征爾氏、秋山和慶氏、若林弘氏等のアシスタントを務めた。
  1990年に指揮者としてデビュー。東京交響楽団を中心に数々の著名な楽団を指揮し、好評を博す。吹奏楽とも関わりが深く、東京の乗泉寺吹奏楽団の常任指揮者を8年間務め全日本吹奏楽コンクールに5年連続出場、3年連続金賞受賞した。
  近年では、東京佼成ウインド・オーケストラ、東京吹奏楽団、大阪市音楽団、シエナ・ウインド・オーケストラ等、プロフェッショナルな団体に度々客演指揮している。
現在、東京音楽大学講師、武蔵野音楽大学講師、二期会オペラ研修所講師。
◎ゲストプロフィール/鈴木 英史
  東京都出身。東京芸術大学を経て、1991年同大学院音楽研究科作曲専攻修了。作曲を間宮芳生・遠藤雅夫、ピアノを角野裕の各氏に師事。1987年に安宅賞、2001年日本管打・吹奏楽アカデミー賞(作編曲部門)を受賞。
  在学中に間宮芳生らとグループ「ミュヘイ(MUHELY)」を結成し、内外の作品の紹介に努めながら作曲活動を始める。その後、東京佼成W.O.、シエナW.O.、BMG、東芝EMI、ポニーキャニオン、ブレーン、バンドジャーナル等から作編曲の委嘱を受け続け現在に至る。
  主な作品に「スパイラル・タワー」、「虹色の海」、「プレリュード」〜“時計台の鐘”の旋律による、愛の3部作、「大いなる約束の大地〜チンギス・ハーン〜」、「プロメテウスの雅歌」、「鳥のマントラ/萬歳楽」、編曲作品(メリーウイドウ、小鳥売りセレクション、こうもり、ロシアの皇太子、伯爵婦人マリツァ等)多数。
 
課題曲クリニック

♪はじめに
鈴木先生: 今日は「ここが難しい」とか「こういう練習をしましょう」とかをオオサカンの演奏から得るよりも、まずどんな曲かというのを聴いてみてほしいと思います。課題曲をやることはいっぱいあっても、ホールでお客さんとして聴く機会ってあんまりないと思う。だから今日はお客さんとして「こんな曲なのか」というのを知ってもらいたいと思います。

♪課題曲T マーチ「ライヴリー アヴェニュー」
鈴木先生: この曲を練習している人たちは、今聴いて「へぇー」と思ったと思う。僕もそう思いました。僕が思うに、この曲ってマーチなのに分厚いじゃないですか。分厚くて重い感じになって、どうやって軽さ・マーチらしさを出すか・変化を出すかが難しい。最初の部分でもピッコロが入ってないのに途中から入ってくるとか細かい仕組みがあるのに、楽譜通りの強弱でやると意外とそれが埋もれたりするけど、それが今日はすっきり聴こえました。どんな風にされたのでしょうか?
時任先生: おもしろく。それのみでございます。
鈴木先生: 普通マーチだと、例えば学校の先生は最初の入り方も「いち、に!」って振りますけど…途中の部分とかはゆっくりと動かしたりしていましたよね?それはなぜでしょうか?
空 空
時任先生: マーチで「インテンポ」って皆さんおっしゃるけど、インテンポで歩いている人って世の中にいないですよね? 人間的な歩き方って、楽しい時は楽しい、悲しい時は悲しい、恋心を持っているときはそういう歩き方だし…。皆さんが機械的に歩いてしまうマーチにはしたくない、というのが私のマーチの考え方なんですが…。
鈴木先生: それはテンポが揺れるとは違う?
時任先生: 揺れても良いと思うし、それが音楽的に心地よければ良いと思います。ただ、それがむやみやたらに遅くなったり、意味もなくルバートがかかったりするのは良くないなと思いますけども…。
鈴木先生: たぶん皆さんメトロノームできっちり合わせて練習すると思うんだけど…もちろんそうなんだけど、聴いた時にインテンポに聴こえる・自然な表情に聴こえる「インテンポ」っていうことですよね。意外とメトロノーム通りにやっていると音楽的になんだか…
時任先生: なんだかふんづまって聴こえるんですよね。メトロノームで練習していると、長い音符はだらんとだらけて、細かい音符はふんづまって聴こえるし…。細かい音符がいっぱいあるところは少し幅を広げてあげる、長い音符は少し幅を狭めてあげないと、聴いている方は不自然。一番難しいのは表打ちと裏打ちで、その音楽を察して間を縫っていかないといけない。
鈴木先生: なるほど。今時任さんが喋っていることっていうのは、もしかしたら明日からの練習にすぐに反映されるというと違うかもしれないけど、半年後に煮詰まったときに「そういえばあんなこと言ってたなぁ」というようないろんなヒントになると思います。もちろんマーチだけに限ったことではないし、次の課題曲にも言えることだと思う。
   

♪課題曲U 天国の島
鈴木先生: すばらしいですね。この曲は、意外と細かい音符が多い。メロディーも16分音符だったり32分音符だったり…その割にテンポ設定が意外と速い。
時任先生: そうなんですよ。
鈴木先生: さっき小編成レパートリーコンサートの時に「作曲家が言っていることはあんまり信用しない方が良いですよ」って言ったんですけど、これも同じで、書いているテンポじゃないとだめっていうわけではないと思うんですよ。テンポや強弱もそうだと思うんだけど…。
今はテンポを少し遅くして演奏されていましたが、聴いてみて「変だな」とは思わなかった。こんな風に歌えてこんなに細かい音符も聴こえて…この曲良いなぁって思いました。
時任先生: 速くなるところがテンポ132って書いてあるんですが、「ターンタターンタタタタ」というところがどうしても潰れるんですよね。それを自分が歌ってみて、このリズムを一番歌いやすいのはどのテンポかなって考えて、テンポ的には少しゆっくりとした演奏になりました。
鈴木先生: つまり細かい音符にも表情が出せるっていうことですよね。
でね、最近の作曲家ってこういうテンポのおかしいところが多いような…
時任先生: 割と今コンピュータの打ち込みで作曲される方が多いですよね。打ち込みだと人間がやっているわけではないので、どんなテンポでも演奏してくれる。
大学の作曲科の初演もよくやるんですけど、ある学生の曲で8分音符が203って書いてあるんですよ。しかも変拍子で、曲の3分の2がフラジオ、もう音楽として追いつかなくて…。でもすごくやりたいことをたくさん書いてあったんです。僕は別に作曲家の方を信用していないわけではないんですよ。作曲家の方の、本当の頭の中はこうじゃなかったですかと演奏で問いかけたいんです。
鈴木先生: 最終的にその曲はどうしたの?
時任先生: 結局160くらいまでテンポを落としたんですよ。実際に演奏してみて、「このテンポでもあなたの思う音符のスピード感が出ていませんか?あなたがピアノで弾いたときに203のテンポでやっていたものが、これだけの人数のオケでやったときに、テンポを落としても十分それに対応するだけの表現が入っているのでは?」と尋ねると、その子は「オケを作曲するのはこれが2回目なので、大変勉強になりました。」と言ってくれて…
空 空 空
鈴木先生: 打ち込みで作曲するのを、僕はやらないんですよ。楽譜作成ソフトで音符を打ち込んで、再生を押すとそれがすぐに流れるじゃないですか。それを聴いて作曲している人がけっこう多いんですよね。
僕も大学で作曲を勉強しましたが、大学で「吹奏楽の書き方」なんて教えられないんですよね。だから中学校の吹奏楽部とかに楽譜を書いて渡して、2ヶ月後くらいに聴きに行って、「あー全然ダメだ…」って。例えば「このサックスの音は音程が悪いです」とか「この音は出にくいです」とか…そういうのを知っていって「こういうのを書いちゃいけないんだな」というのが分かってくる。だから、演奏でも教えてあげないといけないし、楽譜の読み方も、これだったら自然に歌えるなっていうのを各バンドで見つけないとだめですよね。「fって書いているから大きく」「このテンポ書いてあるからこれ」ではなく。
時任先生: 今回の大阪市音の参考演奏も、テンポ設定を作曲家の書いている通り忠実に再現するようにしていますよね。僕も昔、参考演奏の録音をしたことがあるんですが…。参考演奏があって助かっている部分もあると思いますが、もしこれがなかったらコンクールでもっと多彩な演奏が出てくるのではないかと。
鈴木先生: 僕もそう思いますね。
時任先生: ある学校に行くと、参考演奏を流して、その通りに演奏しているかどうかを部長が確認しているんですよ。音の高さや吹き方を全部一緒にして、それができれば良い賞が取れると思っている学校があったりもするんですよね。
鈴木先生: あれは本当に参考の演奏だから、「この楽譜はこんな音がするのか」っていうくらいですよね。
 

♪課題曲V シャコンヌ S
鈴木先生: この「シャコンヌ」っていう題名がこの曲の構成や内容を表していますよね。「シャコンヌ」って何かというと、J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」のシャコンヌみたいに、出だしに8小節の基本的な和音進行とメロディーがあって、それを繰り返しながら変容していく。多分、吹奏楽コンクールの耳からすると、クライマックスがないとか泣かせるメロディーがないとか…
時任先生: 聴かせどころがないと感じてしまう。
鈴木先生: そうそう。でもこの「シャコンヌ」という構成がそういう構成ではないですもんね。だから、真ん中にffは出てくるけど、そこを盛り上げようとすると全部が崩れてしまう。だからその曲にあった作り方っていうのが必要とされる曲であって、神経の使いどころが全然違いますよね。
空 空
時任先生: そうですね。フレージングや、音がぶつかっているところをどうやって美しく聴かせるかとか…
鈴木先生: さりげなくクラリネットがきれいに半音でぶつかっているんですよね。普通の和音なのに「ドレミ」ってぶつかっていて…ただ鳴らすとぐちゃっとなってしまうけど、良いバランスで響かすと今みたいにきれいな響きになる。そういうのは、どうやってクライマックスを使って泣かせようかって言うのとは全然違いますよね。ちなみに時任さんはコンクールで審査されていて、演奏で感動されることってありますか?
時任先生: 時々あるんですけど…「こんな演奏が中学生や高校生でできるのか!」って思ってAをつけたりすると、それが銅賞だったりするんですよね(笑)。
鈴木先生: そうそう!わかるわかる(笑)。
時任先生: あれ、僕の耳がおかしいのかなと思ったりして…。まぁいろんな先生がいらっしゃるっていうのはそういうことで、縦や基本的なところができていないとだめと思われる方もいらっしゃるし、少しくらいずれていても音楽的だから良い点を出す先生もいらっしゃるし、それはいろんな価値観があるんですよね。
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鈴木先生: 審査って本当に時の運ですよね。僕も審査していて「あれ?」って思うことがあります。野球とかとは違って…フィギュアスケートとかと似ていますよね。
時任先生: 野球やサッカーみたいに点数がつきませんからね。3−2で勝ったとか負けたではないですし、フィギュアスケートの点数というのもあって無いようなものですから…。皆さんにとっては金賞や銀賞っていうことがひと夏の苦労の結果ではあるんだけれども…こちらからすると、皆さんが納得のいく良い演奏をして良い夏を過ごして結果がどうあれっていうように持っていっていただけると良いと思うんです。…ちょっと殺気立っているような学校もありますもんね。
  鈴木先生: そうですね。入場してきた瞬間から分かりますもんね。
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時任先生: 13連符が合っているとかね。合わないように書いている場合もあって、もやもやっとしていて良いのに、それが合っていると逆に気持ちが悪くなっちゃう。
鈴木先生: 合わないといけないものもあるんですけどね。アッチェレランドで3連符と5連符とでぐちゃぐちゃっとなってジャンとなるのが良いのに、それを全部デジタルでやられちゃうと違うなぁと思う。音楽的なエッセンスを感じながらいつも練習してもらいたいなと思います。
時任先生: だから今日の演奏をマネしてほしいとは全然思わないんですが…ただ、皆さんが持っている譜面と私たちが持っている譜面は全部同じなんですが、こういう風にもできますよっていうひとつの提示なんですね。これを良いとするか悪いとするかではなくて、「もっと譜面の読み方って多彩で良いですよ」っていう一つのこちら側の提示なので…さっき鈴木先生もおっしゃっていましたけど、夏ごろになったら少し役に立つことがあるんじゃないかなって思うんです。
 

♪課題曲W 南風のマーチ
鈴木先生: これは圧倒的に楽譜に書いてある情報が少ないですね。この作曲家はまだ若いでしょう、23歳くらいかな? 作曲する人っていうのはいろんなタイプがあって、リズムが好きな人、メロディーが好きな人、和音が好きな人、音色が好きな人、っていろいろいると思うんだけど…この作曲家はメロディーが書きたいのではないかと思います。だからメロディーに神経がすごく行っていて、伴奏や和音っていうところには…
時任先生: おもしろく聴かせるには工夫が要りますよね。
鈴木先生: メロディーだけやってみると自然に抑揚がついてくると思うんだけど、伴奏だけやってみると少しやりにくいというか…
時任先生: まぁちょっと変わった和音がついていますよね、おもしろいというか…
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鈴木先生: ちょっと変わっていますよね。練習していくときに上手くいかないなと思うところがあると思いますが、それを自然にするかがこの曲のポイントかなぁと…。時任さんはこの曲ではどんなところを気にされたのでしょうか?
時任先生: 不思議なところもありますが…不思議と感じさせないうちに、速く先に行ってしまう。作曲家が好きだと思われるメロディーを十分に歌わせてあげて、おもしろいと思うところを目立たせています。
鈴木先生: あんまり時任さんは指揮を振っていないですよね? 今回客席から指揮を見させていただいたのですが、本当におもしろいですよね。練習も全然振らないの?
時任先生: 練習はもう少し振っていますよ。本番はバンドの皆さんを尊重して…。練習では方向性だけ見せて、本番は一番振らないかもしれませんね。
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鈴木先生: でもそういう演奏を聴きたいよね。
時任先生: コンクールや本番って練習の成果発表になってしまいますよね。練習は何のためにするかというと、本番で楽譜から音楽が離れていくような世界を作れるようにするため。難しい話かもしれないけど、16分音符や3連符が楽譜から離れて会場に響いていくような世界を最終的に作れれば理想だなと思う。本番で、どんな風にドライヴしても何とかなるようにするのが練習だと思うんですよね。
鈴木先生: 僕の知っている九州の学校はね、あまり練習しないんですよ。というのは本番が年間500回くらいあって、本番が終わったらすぐに次の本番。その学校は、今、時任さんがおっしゃったみたいに本番全然違うことをしますね。その学校は全国大会でもずっと銀賞だったけど、ある時からずっと金賞を取るようになった。先生に「何を変えたの?」って聞くと「やりたいようにやるようにした」んだって。それまでは、いろんな講師の先生にいろいろ言われて考えながらやって、それでも銀だったみたい。だから意外に音程とかあってないんですよ、全国金でも。縦とかもずれていたりするけど…
時任先生: ドライヴ感があるんですよね。
鈴木先生: そう!もうホールで聴くと圧倒的なの。だからできるんだなと思いました。
 

♪課題曲X 「薔薇戦争」より 戦場にて
鈴木先生: 課題曲Xの枠は作曲コンクールも兼ねているので、少し技術的にも難解な曲に取り組んでみようということなんですが…。
時任先生: 無理やり難解にしている感じがしちゃって…。
鈴木先生: この曲はすごく楽譜に書いてある情報が多いですよね。さっきの13連符が全部聴こえますというような練習をするにはやりがいがありますよね。意外と「インパクトあって良いなぁ」と思える曲かなと…。
時任先生: 練習をすればできる曲ですよね。
鈴木先生: じゃその後どう作るかというのが難しいなと思いました。そうなると、精度を上げていくのが一つと…メロディーをどうしていくっていう曲でもあんまりないでしょう?
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時任先生: 歌うっていうわけでもなく、決めどころはあるけど…トランペットがfだけど他がpとか、バランスが難しい。揃えたりわざとずらしたりいろいろやってみましたけど、きちっとやっても曲にはなる。マーチで和声感とか歌うとかを考えるよりは、こういう曲できちっとやって、暗譜するくらいやればそれなりに効果は上がると思います。
 
♪まとめ
鈴木先生: こうやって全部聴いてもらいましたけど、聴くって言うのは重要ですよね。吹奏楽って皆「やるもの」だと思っているかもしれないけど、意外と「聴くもの」ですよね。遠くで聴く、録音して聴く…コンクールでも演奏会でも聴く人がいないと成り立たないし、聴く人が判断するわけだから…。
時任先生: 注意してほしいのは、絶対に指揮者の方は振りながら聴いてほしいですね。指揮者なしで生徒に演奏させて遠くで聴く先生もいらっしゃるけど、自動演奏になってしまうし、あまりにも放置し過ぎる。皆さんの顔を見ながら振ってあげて、どう届くかというのを研究していただけければと思います。
鈴木先生: 耳の想像力ですよね。
今日聴いてみて、普段難しいなとか思っていた曲も、「あ、こういう曲だったのか」っていろんなヒントが得られたと思います。やっぱり吹奏楽は毎日楽しく練習して、高校や大学になってもまたやりたいなと思ってもらえると良いなと思います。